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 試論 7 様相性の内的連関について

 九鬼周造は、円を使って、三つの様相性の体系を図示している。しかし、円では、対当関係の核心は十分に把握できないのではないか。九鬼の幾何学的精神に対抗して、直線と正方形を使って、様相性の体系の図示を試みる。

目次

  はじめに

  1 円のなかの様相

  2 直線上の対当関係

  3 直線上の様相

  4 正方形のなかの様相

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はじめに

 様相の理解を深めようと思い、九鬼周造の示す三種の様相の体系の図を見ていた。しかし、わかりにくいのである。

 どうして、体系ごとに四つの様相の配置を変える必要があるのだろう。どうして、円の大きさを変える必要があるのだろう。

 円でしか対当関係は表現できないのだろうか。円で様相を表現する必然性はあるのだろうか。

 この考えをまとめた。

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1 円のなかの様相

 九鬼周造がどのように様相を捉え、どのように図示しているかを確認しておこう。

 九鬼周造は、三種の様相性の体系を次のように総括している。

 以上の考察を顧みて、様相性の第一、第二、第三の体系の特色を概括しておこう。第一の体系にあっては、必然性と偶然性とは現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対の様相と見られ、可能性と不可能性とは非現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対と見られている。第二の体系にあっては、必然性と不可能性とは、反対対当を構成しながら、確証性の性格において類似関係にあるものとして一対の様相と見られ、可能性と偶然性とは、小反対対当を構成しながら、問題性の性格において類似関係にあるものとして一対と見られている。第三の体系にあっては、必然性と可能性とは実在性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対の様相と見られ、偶然性と不可能性とは虚無性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対と見られている。

 これは、対照が明確であり、わかりやすい要約である。ここまでは問題がない。というより、これは九鬼周造に教えられ、わたしも共有する出発点である。問題は、九鬼周造がこれを次のように図示し説明していることである。

 三種の体系を左の図形で表わすことが出来る。略字および記号は左の如くである。

  R  現実性
  R´ 非現実性
  N  必然性
  C  偶然性
  P  可能性
   I  不可能性
  +  実在牲=有
  −  虚無性=無

 左の図を簡単に説明しておこう。

      円のなかの様相

 1 第一体系。横線の上下は矛盾対当をなす。上部は実在性(+)を、下部は虚無性(−)を表す。左方は現実性(R)を、右方は非現実性(R´)を表す。必然性(N)と偶然性(C)とは現実性の側にあって矛盾対当し、必然性は実在性の領域に、偶然性は虚無性の領域に属す。可能性(P)と不可能性(T)とは非現実性の側にあって矛盾対当し、可能性は実在性の領域に、不可能性は虚無性の領域に属す。

 2 第二体系。横線の上下は現実性(R)と非現実性(R´)とを表す。左右の対立に矛盾対当の関係が現れている。ただし、現実性の範囲内にあっては、左方は実在性(+)を、右方は虚無性(−)を表わし、非現実性の範囲内にあっては、その反対に、左方は虚無性を、右方は実在性を表す。必然性(N)と不可能性(T)とは反対対当をなし、偶然性(C)と可能性(P) とは小反対対当をなす。反対々当の大円は確証性を表し、小反対々当の小円は問題性を表す。

 3 第三体系。円の中心より左方は実在性(+)を表し、右方は虚無性(−)を表す。横線の上部は現実性(R)を、下部は非現実性(R´)を表わす。必然性(N)の大円は可能性(P)の小円を包摂して、実在性の領域において大小対当をなし、不可能性(T)の大円は偶然性(C)の小円を包摂して、虚無性の領域において大小対当をなす。必然性と偶然性とは、現実性の範囲内において、矛盾対当をなすものであるから、非現実性の範囲すなわち横線より下の部分にあっては、必然性の大円と偶然性の小円とは点線によって非所属性を表している。同様に、不可能性と可能性とは、非現実性の範囲内において、矛盾対当をなすものであるから、現実性の範囲すなわち横線より上の部分にあっては、不可能性の大円と可能性の小円とは点線によって非所属性を表している。

 以上は図の説明である。(九鬼周造『偶然性の問題・文芸論』(燈影社)より)

 この図がわかりにくいのは、体系ごとに四つの様相(必然・偶然・可能・不可能)の配置が変わっていること、また、体系ごとに円の大きさが違っていることに、原因があるのではないかと思う。統一性を欠いているのである。立ち入ってみよう。(N―必然性 C―偶然性 P―可能性 I―不可能性)

 第一体系では、矛盾対当を主軸に表現されている。四つの様相は、必然・偶然、可能・不可能(左上・下、右上・下)の順に配置され、矛盾対当の必然性と偶然性、可能性と不可能性は同じ大きさの円(半円)で示されている。

    第1体系

 第二体系は、反対対当と小反対対当を主軸に表現されている。四つの様相は、必然・不可能、偶然・可能(左上・下、右上・下)の順に配置され、反対対当の必然性の不可能性は第一体系の円より大きいサイズで示され、小反対対当の偶然性と可能性は、第一体系の円より小さいサイズで示されている。大円と小円は、(大)反対対当と小反対対当の対比を示したものと思われる。

    第2体系

 第三体系では大小対当を主軸に表現されている。四つの様相は、必然・可能、偶然・不可能(左上・下、右上・下)の順に配置され、必然性と不可能性は、第一体系と同じサイズの円で示され、可能性と偶然性は、第二体系の小円よりも小さいサイズで示されている。必然性や不可能性が、可能性や偶然性を包摂するから、前者を大きな円で、後者を小さな円で示していると思われる。大円と小円で大小対当を表しているのである。

    第3体系

 円を使って対当関係を表現するというのが九鬼の発想だったと考える。しかし、そのために、体系ごとに四つの様相(必然・偶然・可能・不可能)配置を変える必要がでてきたし、また、円の大きさを変えなければならなくなったのではないだろうか。

 図示のときに必要なのは、第一体系でいえば、矛盾対当の論理的な特徴を図示することで、同じ大きさの円で対比することではないと思う。

 第二体系でいえば、反対対当や小反対対当の論理的な関係の特徴を表すことであって、反対対当を大円、小反対対当を小円で表すことではないと考える。小反対だから小円という安直な図示ではなく、論理的な関係を示す必要があるのである。

 第三体系でも同じである。大小対当の論理的な関係の特徴を表すべきで、包摂するから、必然性を大円で表すことではないと思う。

 この図は、わたしだけでなくだれにとっても、わかりにくいのではないだろうか。円では、対当関係の核心は表現できないし、また統一性も欠如するのである。そして、これは九鬼自身も自覚していたと考える。なぜなら、この図示と説明の直後に、次のように述べているからである。

 なお、偶然性だけに関して、三種の体系における関係を言えば、偶然性は、第一の体系にあっては、必然性と矛盾する現実と見られ、第二の体系にあっては、可能性に類似する問題的のものと見られ、第三の体系にあっては、不可能性に包摂されようとする虚無的のものと見られている。一三七頁の図形に従って偶然性のこの関係を図示すれば次のようになる。
偶然性と三種の体系
 なお様相性の三種の体系は、各々異なった立脚地から諸様相を見ているもので各体系ともにみなその特色を有っている。一を取り他を捨てるべき性質のものでは決してない。偶然性の構造もこの三つの見地から綜合的に目撃して初めて完全に把握されるのである。三つの体系の協力を力説すべきである。

 すなわち、偶然性と三種の体系との関係について、いま説明したばかりの図(円)で示すのではなく、別の図(正方形の一隅)を使って示しているのである。  また、三つの体系の協力が強調されているが、この図が示されていないのである。

 九鬼が示した図は、対当関係の把握に失敗していると考える。

 円を使って四つの様相を表したり、円の大きさを変えたりする必要はないと思われる。さらに、体系ごとに、四つの様相の配置を変える必然性も利点もないと思う。必要なのは、対当関係の論理的な特徴を図示して、そのなかに、四つの様相を位置づけていくことなのである。

 九鬼周造の幾何学的精神に対抗して、わたしなりに、三種の様相の体系のそれぞれの図と、三種の体系の協力の図を示したいと思う。

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2 直線上の対当関係

 矛盾と反対の違い、反対と小反対の違い、大小対当の大と小の違いについて、直感的につかめるように、まず、矛盾、反対、小反対、大小の対当関係の確認しておこう。

 山下正男は『論理的に考えること』(岩波ジュニア新書)のなかで、まぎらわしい論理的表現として、矛盾・反対・小反対を取り上げ、次のように説明している。

(1)矛盾=強い選言

 例としては、「この自然数は奇数だ」と「この自然数は偶数だ」。この二つの文はともに真ではありえないし、またともに偽ではありえません。

(2)反対

 例としては、「気温が上がる」と「気温が下がる」。この二つの文はともに真でありえないが、ともに偽でありえます。ともに偽の場合とは、気温が上がりも下がりもしないという場合です。(中略)

(3)小反対=弱い選言

   例としては、「気温が上がらない」と「気温が下がらない」。この二つの文はともに真でありうるが、ともに偽ではありえません。ともに真の場合とは、気温が上がりも下がりもしない場合です。

 「強い選言」や「弱い選言」という表現は印象的である。

 山下は、英語では、弱い選言(小反対)は and/or と表されていると、紹介している。

たとえば大火事で焼け出されたひとぴとを救援するための呼びかけに "clothes and/or money are welcome" といった表現が使われます。これは「衣料または金銭が歓迎される。衣料と金銭の両方でももちろん結構」という意味です。このようにして弱い選言は、「そして」の場合を排除しませんが、強い選言は「そして」のケースを排除します。じっさい、ハムレットの「生きるべきかそれとも死ぬべきか」といった場合は、「そして」の場合を排除しています。

 弱い選言の場合は、「そして」(and)を排除しないが、強い選言(矛盾)の場合は、「そして」(and)を排除するのである。

 強い選言の「あれ」か「これ」かでは、矛盾律と排中律が成立している。これに対して、弱い選言の「あれ」か「これ」かでは、排中律は成立しているが、矛盾律は成立してないのである。いいかえれば、矛盾(強い選言)では両立は不可能だが、小反対(弱い選言)では両立の可能性があるのである。

 山下正男の挙げている例は、命題の量(全称と特称)について考える必要がないので、真偽関係だけに集中でき、矛盾・反対・小反対の区別がわかりやすいのである。対当関係の原義を確認しておこう。

 対当は、形式論理学の基礎的な考え方である。主語と述語が同じ命題の量(全称と特称)と質(肯定と否定)の違いによって類別される四つの定言命題の間に成り立つ関係である。

 四つの命題とは、次のものである。

   全称肯定(A) すべてのSはPである
   全称否定(E) すべてのSはPでない
   特称肯定(I) あるSはPである
   特称否定(O) あるSはPでない

 そして、四つの対当は、次のものである。

 1 矛盾対当:質と量を異にする二つの命題の真偽関係(A−OとE−I)

    a) 一方の命題が真であるとき、他方は必ず偽
    b) 一方の命題が偽であるとき、他方は必ず真

 2 反対対当:質を異にする二つの全称命題の真偽関係(A−E)

    a) 一方が真であるとき、他方は必ず偽
    b) 一方が偽であるとき、他方の真偽は不定

 3 小反対対当:質を異にする二つの特称命題の真偽関係(I−0)

    a) 一方が偽であるとき、他方は必ず真
    b) 一方が真であるとき、他方の真偽は不定

 4 大小対当:量を異にする二つの命題の真偽関係(A−IとE−O)

    a) 全称が真のとき、必ず特称も真
    b) 特称が偽のとき、必ず全称も偽
    c) 全称が偽のとき、特称の真偽は不定
    d) 特称が真のとき、全称の真偽は不定

 山下は四つの対当(矛盾、反対、小反対、大小(含意))を、不等式の領域に対応させ、数直線上に示している。

対当と数直線

 (1)矛盾対当

  「気温が下がる」と「気温が下がらない」あるいは「気温が上がらない」と「気温が上がる」。これは次の不等式の関係と対応する。

  「 n はゼロ未満である( n < 0 )」と「 n はゼロ以上である( 0 ≦ n )」の関係。

  「 n はゼロ以下である( n ≦ 0 )」と「 n はゼロを超える( 0 < n )」の関係。

 (2)反対対当

  「気温が下がる」と「気温が上がる」。これは次の不等式の関係と対応する。

  「 n はゼロ未満である( n < 0 )」と「 n はゼロを超える( 0 < n )」の関係。

 (3)小反対対当

  「気温が上がらない」と「気温が下がらない」。これは次の不等式の関係と対応する。

  「 n はゼロ以下である( n ≦ 0 )」と「 n はゼロ以上である( 0 ≦ n )」の関係。

 (4)大小対当

  「気温が下がる」と「気温が上がらない」あるいは「気温が上がる」と「気温が下がらない」。これは次の不等式の関係と対応する。

  「 n はゼロ未満である( n < 0 )」と「 n はゼロ以下である( n ≦ 0 )」の関係。

  「 n はゼロを超える( 0 < n )」と「 n はゼロ以上である( 0 ≦ n )」の関係。

 ここで、不等式の領域と命題は、同型で、次のように対応している。

   「 n はゼロ未満である( n < 0 )」 : 全称肯定(A)
   「 n はゼロを超える( 0 < n )」 : 全称否定(E)
   「 n はゼロ以下である( n ≦ 0 )」 : 特称肯定(I)
   「 n はゼロ以上である( 0 ≦ n )」 : 特称否定(O)

不等式の領域と命題 対当の正方形

 わたしは次のように四つの対当を言いかえ、数直線上に図示する。

 1 矛盾  「すきま」のない選言。「あれ」と「これ」は、重ならず、二つの選言の間に「すきま」がない。強い選言。 n < 0 と 0 ≦ n または  n ≦ 0 と 0 < n 。

矛盾

 2 反対  「すきま」のある選言。「あれ」と「これ」は、重ならず、二つの選言の間に「すきま」がある。 n < 0 と 0 < n 。

反対

 3 小反対 重なる選言。「あれ」と「これ」には、重なる部分がある。 n ≦ 0 と 0 ≦ n 。

小反対

 4 大小  包む選言。「あれ」は「これ」を包んでいる。n < 0 と n ≦ 0 。または 0 < n と 0 ≦ n 。

大小

 「大」といわれるもの「全称命題」は、数直線上の領域(集合の図)としてはとしては、「小」さい。反対に「小」といわれる「特称命題」は、数直線上の領域(集合の図)としては、「大」きい。これに注意が必要である。

 四つの命題は直線上に次のように配置されていることになる。

四つの命題の配置
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3 直線上の様相

 数直線上の対当関係を基礎にすると、九鬼周造の三種の様相性の体系は、それぞれ次のように図示できる。

 1 第一の体系 

「第一の体系にあっては、必然性と偶然性とは現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対の様相と見られ、可能性と不可能性とは非現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対と見られている。」

 差別性

矛盾1 矛盾2

「現実の地平にあっては、必然であると同時に偶然であることは出来ない。且つ、必然か偶然かのいずれかでなくてはならない。」いいかえれば、「必然性」と「偶然性」には、重なりがなく、「すきま」もない。「同様に、非現実の地平にあっては、可能であると同時に不可能であることは出来ない。且つ可能か不可能かのいずれかでなくてはならない。」「可能性」と「不可能性」にも、重なりがなく、「すきま」もない。

 第一体系をまとめれば次のようになる。

第一の体系

 2 第二の体系

「第二の体系にあっては、必然性と不可能性とは、反対対当を構成しながら、確証性の性格において類似関係にあるものとして一対の様相と見られ、可能性と偶然性とは、小反対対当を構成しながら、問題性の性格において類似関係にあるものとして一対と見られている。」

 類似性

反対 小反対

 「いったい、必然か不可能かのいずれかでなくてはならぬというようなことはない。第三者として問題的のものが中間にあり得る。すなわち排中律は妥当しない。」すなわち、「必然性」と「「不可能性」の間には、「すきま」がある。「しかし、必然であると同時に不可能であることは出来ないから矛盾律は妥当する。」すなわち、「必然性」と「不可能性」は、重なってはいない。ようするに、必然性と不可能性は、重ならず、「すきま」がある。 

 「可能であると同時に偶然であることは出来ないなどとは言えぬ。可能と偶然とは同時に成立し得る。偶然に現存在するものは現存在することが可能であるからである。可能が現実にならないで非現実の中に止まっているのは単に偶然に過ぎない。要するに、可能と偶然との問には矛盾律は妥当しない。」いいかえれば、「可能性」と「偶然性」には、重なる部分がある。

 「必然性を可能性の極限と考え、不可能性を偶然性の極限と考えるならば、可能か偶然かのいずれかでなくてはならぬと言える。それ故に排中律は妥当する。」すなわち「可能性」と「偶然性」には、「すきま」がない。

 第二体系をまとめれば次のようになる。

第二の体系

 3 第三の体系

 「第三の体系にあっては、必然性と可能性とは実在性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対の様相と見られ、偶然性と不可能性とは虚無性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対と見られている。」

 近接性

大小1 大小2

 必然性や不可能性は、数直線上の領域(集合の図)としてはとしては、「小」さい。反対に可能性や偶然性は、数直線上の領域(集合の図)としては、「大」きい。

 すなわち、九鬼周造は必然性を大円で、可能性を小円で図示し、また、不可能性を大円で、偶然性を小円で図示しているが、領域(集合)の包含関係は、逆になっているのである。必然性(大)が可能性(小)を包摂しているのではなく、可能性(小)が必然性(大)を包摂しているのである。同じことだが、不可能性(大)が偶然性(小)を包摂しているのではなく、偶然性(小)が不可能性(大)を包摂しているのである。

 様相性の巴図(あるいは九鬼周造の第三の体系の図)では、可能性が増大して必然性に包摂されるが、数直線上の領域(集合の図)では、可能性は縮小して(条件を付け加えて、内包を増大し、外延を縮小して)、必然性に包摂されるのである。

 第三体系をまとめれば次のようになる。

第三の体系

 以上が、直線上に表した三種の様相性の体系である。

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4 正方形のなかの様相

 九鬼周造は様相性を正方形で示した図を二つ提出している。

 一つは、六つの様相(現実・非現実、必然・偶然、可能・不可能)のうち、二つの様相に共通する特徴を表現した図である。現実と非現実の言明性の軸があるのが特徴である。現実と非現実を上辺と下辺に配して、四つの様相(必然・偶然・可能・不可能)を四隅に配置しているものである。これは、様相性の第一の体系と第三の体系の図示の基礎になっているものである。そして、偶然性と三種の様相の体系との関係を指摘するとき、背景にした正方形である。

   正方形A

 もう一つは、アリストテレスの対当の正方形である。これは、六つの様相のうち、現実と非現実は二つの対角線に重ね、四つの様相(必然・偶然・可能・不可能)を四隅に配置しているものである。これは、三種の様相の体系の図としては、活用されていない。

   正方形A´

 九鬼周造が、偶然性と三種の体系の関係を指摘するとき、なぜ、上の正方形を選び、下の正方形を選ばなかったのかは、よくわからない。三種の様相の体系を図示するとき、体系ごとに様相の配置を変えたために、古典的な対当の正方形とは相性が合わなくなったのかもしれない。

 しかし、どちらでも、同じ関係を表現できるのだから、選択は、最終的には、美学によるのである。

 わたしの場合は、間違いなく、下の正方形を選ぶ。そして、この正方形に、三種の様相の体系の協力を見るだろう。理由は、上の正方形では、矛盾対当は、上辺と下辺に現れているのに対して、下の正方形では、矛盾対当は二つの対角線に表れていることに求められる。矛盾を対角線に見るほうが、わたしには落ち着きがよいのである。矛盾を「対角線的に対立している」という表現もあるくらいだから、下の正方形のほうが伝統的な配置なのである。

 さて、直線上に表した様相の体系の協力をそのまま直線上に表現すれば、次のようになる。

  直線上の様相

 直線上に並べてみると、四つの様相が、どのように離れ、どのように重なり合っているか、そしてどのように推移していくかがわかりやすい。いいかえれば、必然性・可能性・偶然性・不可能性という様相のスペクトルを見ることができるだろう。また、矢印の関係を見ることによって、一つの様相が、他の三つの様相とどのような関係にあるかをたどることができる。これは利点である。

 しかし、この図には、欠点がある。現実性と非現実性、確証性と問題性、実在性と虚無性の軸が、重なっていることである。この欠点を取り除くには、次元を拡げる必要がある。そして、重なっている軸を分離する必要がある。

 「必然性と不可能性」の反対対当を下辺として、左右の「可能性と必然性」と「偶然性と不可能性」の大小対当を左辺と右辺として立てよう。そうすれば、おのずと、「可能性と偶然性」の小反対対当は上辺となり、「必然性と偶然性」と「可能性と不可能性」の矛盾対当は二つの対角線となる。

 この正方形に、現実性と非現実性、確証性と問題性、実在性と虚無性の軸を書き込めば、次のような正方形ができる。

   正方形のなかの様相

 これが、三種の様相性の体系の協力の図である。これは、九鬼周造が示した二つの正方形の複合と考えることができる。対になる様相の特徴(現実性と非現実性、確証性と問題性、実在性と虚無性の地平)と対当関係(矛盾・反対・小反対・大小対当)を組み合わせたものと考えられるからである。

  1 第一の体系は、二つの対角線に表現されている。
  2 第二の体系は、上辺と下辺に表現されている。
  3 第三の体系は、左辺と右辺に表現されている。

 もう一度、三つの様相性の体系を確認しておこう。九鬼周造は次のように要約していた。

第一の体系にあっては、必然性と偶然性とは現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対の様相と見られ、可能性と不可能性とは非現実性の地平において矛盾対当をなすものとして一対と見られている。第二の体系にあっては、必然性と不可能性とは、反対対当を構成しながら、確証性の性格において類似関係にあるものとして一対の様相と見られ、可能性と偶然性とは、小反対対当を構成しながら、問題性の性格において類似関係にあるものとして一対と見られている。第三の体系にあっては、必然性と可能性とは実在性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対の様相と見られ、偶然性と不可能性とは虚無性の次元において大小対当の近接関係にあるものとして一対と見られている。

 この図は、アリストテレスの対当の正方形の辺と対角線に、現実性と非現実性、確証性と問題性、実在性と虚無性の軸を書き入れたものと、実質的な違いはない。

 下辺(必然性と不可能性)の下に鏡を置いたときにできる鏡像が、九鬼周造が示している正方形である。

   正方形B

 このようにアリストテレスの対当の正方形に、様相性の体系を重ねれば、様相の体系が三つあり、そして三つだけしかないことがわかるだろう。

 九鬼周造が体系ごとに四つの様相の位置を違えたことは、三種の体系の協力の図示を妨げたものと考えられる。

 以上、わたしなりに三種の様相の体系のそれぞれの図と、三種の体系の協力の図を示した。

 参考文献
 
   九鬼周造『偶然性の問題・文芸論』 燈影社 2000年
   山下正男は『論理的に考えること』 岩波ジュニア新書 1985年

 
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