「ニュートン力学」は、ニュートンが ケプラーの惑星の法則とガリレイの落体の法則を選択し、混成し、統一することによって、形成した「論理的なもの」である。
目次
わたしは、ガリレイの落体の法則とケプラーの惑星の法則から、ニュートン力学が形成される過程を弁証法の新しい理論(複合論)の典型的な例と考えています。
本論のなかでは、二つの「論理的なもの」の自己表出と指示表出がどのように推移していくのか把握しやすいように、比喩を使って、ニュートン力学の形成過程をとりあげました。すなわち、具体的な理論にはふれず、ガリレイの理論を「落ちるリンゴ」、ケプラーの理論を「落ちない月」と考え、リンゴと月の比喩をつかって、万有引力の理論が形成される過程を説明しました。
「落ちるリンゴ」と「落ちない月」が混成されて、「落ちないリンゴ」と「落ちる月」という混成モメントが形成される過程がポイントでした。
ここでは、ガリレイの理論とケプラーの理論を具体的にとりあげて、ニュートン力学がどのように形成されたのかを把握していきたいと思います。
ニュートン力学の形成過程は、武谷三段階論の例 として、また湯川同定理論の例 としてとりあげられています。
わたしは複合論の例としてとりあげます。すなわち、「ニュートン力学」は、ニュートンが ケプラーの惑星の法則とガリレイの落体の法則を選択し、混成し、統一することによって、形成した「論理的なもの」であると考えます。
まず、複合論の要点を述べ、次に、ニュートン力学の形成過程をたどっていきます。
複合論の要点を確認し、その特徴をみておきます。(くわしくは、 『弁証法試論』本論を見てください。とくに、 2章 認識の構造とバイソシエーション 、 6章 複合論、 弁証法2004が参考になります。)
わたしは「論理的なもの」の構造として「自己表出と指示表出」を想定しています。これはヘーゲルの「論理的なものの三側面」に対置した構造です。
わたしの想定する「論理的なもの」とはヘーゲルとは違い〈内容を欠いた形式的に論理的なもの〉です。
自己表出と指示表出は、吉本隆明が『言語にとって美とはなにか』で提出している言語の構造です。わたしはこの考え方を認識の領域で応用できるのではないかと考えました。
自己表出と指示表出は、認識が媒介され、新しい認識が形成されていく過程を把握できるように導入したものです。いずれも判断と推論の可能性にもとづいています。自己表出は対象に対する立場の表出です。指示表出は対象に対する指示の表出です。自己表出は認識の普遍的な側面に対応しています。他方、指示表出は認識の個別的な側面に対応しています。
わたしは自己表出と指示表出を、主体的な認識過程としても、認識(「論理的なもの」)の構造としても想定しています。
自己表出と指示表出は次のように使われます。例えば、同じ気体を見ていても、プリーストリは「脱フロギストン気体」と考え、ラボアジェは、「酸素」と考えます。このときプリーストリの自己表出と指示表出は「脱フロギストン気体」であり、ラボアジェの自己表出と指示表出は「酸素」であると捉えるのです。
「論理的なもの」は、複素数をモデルにして、表現できます。例えば、A = a + bi という式で、ある特定の「論理的なもの」を表現できます。実数部分が自己表出です。虚数部分が指示表出です。虚数単位 i と結合している方が指示表出です。
「論理的なもの」を複素数で表示すると、認識形成の関連が見やすくなるという利点があります。複素数を利用すると、自己表出と指示表出の媒介機能が見やすくなるのです。
弁証法は、対話ををモデルとした思考方法で、認識における対立物の統一です。この過程は、二つの「論理的なもの」の選択から開始されます。
これが複合論の基礎にある考え方です。
二つの「論理的なもの」を意識的・積極的に選択する場合だけでなく、無意識のうちに、あるいは受動的に、二つの「論理的なもの」を選択していたという場合も考えられます。
さて、認識における対立物の統一は、対話をモデルとした思考方法によって進展していきます。複合論は複素数のかけ算をモデルとして表現できます。これは「論理的なもの」の構造を複素数で表現したことを受けたものです。
対話をモデルとした思考方法は、弁証法の共時的構造と考えることができます。また、対立物の統一の過程は選択、混成、統一という三段階を経ていきますが、これは弁証法の通時的な構造と考えることができます。
認識における対立物の統一の過程は、次のように表現できます。
◇ 弁証法の通時的な構造
この三段階は、ヘーゲルの「論理的なものの三側面」に対置する通時的な構造です。記号で表示すれば、次のようになります。
| 1(選択) | A =a+bi |
| A' =c+di | |
| 2(混成) | A×A' =(a+bi)×(c+di) |
| ≒(a+di)×(c+bi) | |
| 3(統一) | =(ac−bd)+(ab+cd)i |
| =x+yi | |
| =B |
◇ 弁証法の共時的な構造
また、弁証法の共時的な構造は、次のように表現できます。
| c | ← | bi | + | a | → | di |
| + | ↑ | ↓ | + | |||
| bi | ← | c | + | di | → | a |
中央にある bi + a と c + di は、選択された二つの「論理的なもの」です。矢印は推論を示しています。推論によって出現する第三の要素は水平方向の矢印の先に表示しています。これらは結合して、混成モメントを形成します。右側の a + di と左側の c + bi です。これらは異なる二つの「論理的なもの」の、一方の自己表出と他方の指示表出で構成されています。
共時的な構造の中央にある bi + a と c + di は、通時的な構造の2(混成)の( a + bi )×( c + di )に対応しています。また、共時的な構造の両側の a + di と c + bi は、通時的な構造の2(混成)の( a + di )×( c + bi )に対応しています。
以上が複合論の要点です。
「ニュートン力学」は、ニュートンが ケプラーの惑星の法則とガリレイの落体の法則を選択し、混成し、統一することによって、形成した「論理的なもの」であると考えます。
ニュートンは、ケプラーの惑星の法則とガリレイの落体の法則を選択しました。まず、二つの法則を確認しておきます。
ケプラーの惑星の法則は、次の三つです。
また、ガリレイの落体の法則は、次の二つです。
ケプラーの惑星の法則は、天体の運動に関連するもので、その自己表出と指示表出は、「軌道と力」に関するものだったと考えられます。一方、ガリレイの落体の法則は、地上の物体の運動に関連するもので、その自己表出と指示表出は、「慣性と加速度」に関するものだったと考えられます。 惑星の法則と落体の法則の自己表出と指示表出は、関連しあい、ニュートンの思考の方向を決定していったと考えます。
ニュートンの頭の中に出現したのは、次のような弁証法の図式(共時的な構造)です。
| c | ← | bi | + | a | → | di |
| + | ↑ | ↓ | + | |||
| bi | ← | c | + | di | → | a |
ここで、上の中央の bi + a をガリレイの落体の法則とします。また、下の中央の c + di をケプラーの惑星の法則と考えます。矢印はニュートンの推論を表しています。水平方向の矢印の先には、混成されたモメントが出現します。
ガリレイの落体の法則に欠落していたのは力の概念でした。一方、ケプラーの惑星の法則に欠けていたのは、加速度の概念だったと思われます。ニュートンはケプラーの力とガリレイの加速度を結合します。また、ニュートンはガリレイの慣性とケプラーの軌道を結合します。
左側に出現している混成モメント c + bi は、惑星の法則の自己表出 と落体の法則の指示表出 から構成されています。これは、ケプラーの「軌道と力」(自己表出)とガリレイの「慣性と加速度」(指示表出)とを結合する方向を示しています。
これが運動の原因を力に求めるという方向を指示し、運動の三法則の構想となったと思われます。それは次のようなものです。
二ュートンの三つの法則は、アリストテレスの「自然運動」と「強制運動」に対置された力学の原理です。
1 は、慣性の法則です。ガリレイは等速運動を慣性ととらえました。しかし、かれの慣性は、等速直線運動ではなく、等速円運動でした。それゆえ、ガリレイの慣性運動に対する貢献は、十全な把握をしたことにあるのではなく、力を加え続けなければ運動は止むというというアリストテレスの考えを否定したことにあるといえるでしょう。慣性の法則を、直線運動として最初に提示したのは、デカルトでした。かれは、等速円運動では、速度が一定でも、速度の縦方向、横方向の成分は変化していることに着目して、慣性による運動は、等速の直線運動でなければならないと考えたようです。ニュートンは、これを引き継いでいます。
2 は、運動の方程式 (f=ma )としてまとめられるものです。ここで、f は力、m は質量、a は加速度を表します。
ニュートンは、運動の原因として、力を問題にします。天体の円運動や固有の場所へ向かう落下運動など、アリストテレスが自然運動と考えた運動は力によって強制された運動であるとニュートンは考えました。
運動の変化について、ガリレイが興味を持っていたのは、地上の運動だけです。かれは、天体の運動については、天体は円運動するというアリストテレスの考えを踏襲していて、ケプラーの楕円軌道にまったく興味を示しません。むしろ、ケプラーの法則を拒否しています。しかも、地上の運動の数学的な表現だけに関心があり、例えば、加速度の原因については問うべきものではないと考えていました。かれは遠隔力としての重力という考えを受け入れませんでした。
これに対して、ニュートンは惑星の運動を含めて、普遍的に運動を問題にします。例えば、ガリレイは地上の投射体の運動が、水平方向の慣性運動と鉛直方向の自由落下運動の合成によって、放物線を描くことを知っていました。しかし、この考えは、天上の運動には適用されず、地上に留まります。これに対して、ニュートンは、惑星の運動もまた、合成運動であることを主張します。すなわち、軌道の接線方向に働く慣性力と太陽の引力との合成運動として、惑星の運動を把握できるのではないかと考えました。地上で放物線を描くのと同じ原理が、天上では楕円軌道を描いているのではないかと考えました。
3 は、作用反作用の法則です。これは、デカルトが運動量の保存則を提起したとき前提していた原理で、二つの物体に、及ぼしあう力の性質について述べたものです。ニュートンは、これを継承します。しかし、デカルトは物体の衝突という地上の現象に限定していただけですが、ニュートンは、地上の力学だけでなく、天体の相互作用の基本条件としても拡張します。これは、重力は相互的作用で、石が地球に引かれるだけでなく地球もまた石に引かれるというケプラーの考えを引き継ぐものです。
作用反作用の法則は、天体の運動を考えるとき、天体の形や大きさ、成分などを捨象して、天体を質量だけを持つ点として考えてよいことを担保するものです。
等速円運動は、速さは一定ですが、方向はつねに変化しているので、慣性運動ではありません。加速度があります。等速円運動の加速度の大きさと方向を確認しておきましょう。和田純夫『一般教養としての物理学入門』参照。ここで考える等速円運動は、強調していえば、地上における等速円運動です。重りを糸につけてまわすときの関係です。

図(a)のように、半径r、速度vで、等速円運動をしている物体を考えます。 微小時間Δtの間に、物体がAからBまで動いたとします。動いた距離はAB=v・Δtですから、 角度Δθは、次のようになります。
(1)
次に、速度の関係を見ておきましょう。
A点とB点で、速度の大きさは同じですが、その方向は、それぞれの点で接線の方向を向いていて、違っています。これを図示(b)しましょう。
ところで、接線と半径とは、垂直ですから、速度の方向の変化は、図(a)の角度Δθと同じです。
Δvは速度の変化分を表します。
図(b)で、
だから、(1)より、
(2)
加速度は速度の変化率だから、円運動の加速度は次のようになります。
(3)
またΔvは、速度vと直交していますから、図(a)の円運動の中心方向を向いています。したがって、加速度も円の中心を向いています。いいかえれば、中心に向かう力が働いています。
整理しておきましょう。等速円運動の加速度の大きさは、(3)で表されます。速さの2乗に比例し半径に反比例する大きさです。この関係を最初に導いたのはホイヘンスだといわれています。また、加速度の向きは、中心に向いています。
次に、図( 弁証法の共時的構造 )の右側を見てみましょう。
右側の混成モメント a + di は、ガリレイの自己表出とのケプラー指示表出 から構成されています。これは、ガリレイの「慣性と加速度」(自己表出)とケプラーの「軌道と力」(指示表出)とを結合する方向を示しています。
この混成モメントは「万有引力」の構想となったと思われます。ケプラーは、ギルバートの「磁気哲学」に依拠して、運動を引き起こす力を想定していました。それは、太陽から放射される何か磁力のような性質を持った力(アニマ・モートリックス)です。ケプラーが考えた惑星の運動の力関係は、次のようなものです。惑星は、静止慣性を持っているから、惑星が運動するためには、つねに力が働いていなければなりません。ケプラーはこの力が、惑星軌道の接線方向にかかっていると想定していました。
ちなみに、慣性ということばは、ケプラーが作ったといわれています。ただし、ケプラーの慣性は、静止慣性で、運動するには、不断に力が必要と考えられています。この意味では、アリストテレスの運動論と変わりませんが、惑星について想定されているところが新しい点です。対照していえば、ガリレイは、慣性運動において不断に作用する力の存在を否定しましたが、惑星に慣性を適用することは考えてもみませんでした。
ケプラーが想定した太陽の動力について、朝永振一郎は『物理学とは何だろうか』のなかで、次のようにまとめています。
このような問答の後、彼は、太陽から出る光線が距離とともに広がるにつれ照度が距離の2乗に逆比例しで弱まることを例にとりながら、太陽の動力も同様に遠方で弱まるのだといいます。ただし、動力は球対称的に放射する光線の場合と異なり、太陽の自転軸と関連して放射されるので、必ずしも距離の2乗に逆比例しているとは考えられない、などといい、さらにづづいて第二、第三法則を説明しようとしています。
ニュートンは、ケプラーが天上に想定した太陽の力は地上で物を落下させる力と同じ性質を持つものと考えました。すなわち、リンゴが落ちる力と月を軌道に留めている力、そして太陽が惑星を動かす力は同じ性質の力だと考えました。ケプラーの法則から導かれるものを考えることが、リンゴと月を結びつけたものと思われます。万有引力は、リンゴと月と太陽の三位一体から発想されたものと考えられます。
ケプラーは、太陽が惑星を軌道方向に押す力を考えていました。これに対して、ニュートンは、惑星の運動に、新しい慣性の法則を適用して、中心に向かう力を想定しました。「惑星の運動」を「接線方向への直線運動と中心物体の方向に引き寄せられる運動の合成」として捉えられるのではないかと考えました。これはボレリやフックの考えを引き継いだものです。惑星の運動を慣性と太陽の求心力によって捉えようとする考え方は、山本義隆が強調しているように、「それまで向心力と遠心力の釣り合いという形で惑星運動を窮屈に見ていたニュートンにたいしてはるかに有効な解析方法」だったと思われます。『磁力と重力の発見』参照。
さて、ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)は、力が向心力であることを意味しています。また、ケプラーの第3法則(軌道と半径の関係)は、その中心力が距離の2乗に逆比例する大きさの力であることを意味しています。この二つが万有引力の形を決定したと思われます。
これについて見ていきましょう。
話を複雑にしないために、惑星の軌道は、楕円ではなく、円と考えます。すると、ケプラーの第2法則は、等速円運動をしていることを意味するようになります。また、第3法則は、公転周期の2乗は軌道半径の3乗に比例することを意味しています。
等速円運動の加速度の方向は、円の中心を向いています。したがって、地上の法則としての円運動が、天上にも適用できるとするならば、第2法則が意味するのは、惑星には太陽に向かう中心力が働いていることです。
次に、この太陽へ向かう引力の大きさについての条件を見ておきましょう。この条件は、ケプラーの第3法則から導かれます。和田純夫『一般教養としての物理学入門』参照。
公転周期とは一周にかかる時間ですから、半径r、速度 vとして、2πr/vです。第3法則を表せば、次のようになります。ここでは比例関係を見るだけですから、2π は省略します。
これを整理すると
これが意味するのは、惑星の速さの2乗は半径に反比例するということです。 ところで、等速円運動の加速度の大きさは、(3)式より、

でしたから、惑星の加速度は
(4)
が帰結します。
これは加速度が半径の2乗に逆比例する大きさであることを示しています。つまり、ケプラーの第三法則は中心力の大きさが半径の2乗に逆比例する大きさであることを示しています。
アリストテレスは、月が地球に落ちてこないことから、地上の物体と天体は異なった法則で運動していると考えました。地上の物体の法則はガリレイによって、落体の法則として定式化されました。その自己表出と指示表出は慣性と加速度と考えられます。また、天上の法則はケプラーよって、惑星の法則として定式化されました。その自己表出と指示表出は軌道と力に関するものだったと考えられます。
ニュートンは、ケプラーの力とガリレイの加速度を結合しました。また、ガリレイの慣性とケプラーの軌道を結合しました。このように二つの法則の自己表出と指示表出を混成することによって、地上の法則に天上の法則が入りこむ一方で、天上の法則に地上の法則が入りこみました。 そして「運動法則」と「万有引力」の考えが形成されました。
ニュートンは月が軌道にとどまっているのを見ても、月は地球に落下していると考え、地上の物体の運動法則と違わないと考えるようになります。この考え方を端的に表しているのは次の図でしょう。ニュートンは地上の放物線と天上の楕円を同じ運動法則で描いています。
さて、左側の混成モメント「運動法則」と右側の混成モメント「万有引力」とは、結合します。
太陽による引力は、式 (4) とニュートンの第2法則 ( f = ma )より、惑星の質量をmとすれば、次のような関係になります。
すなわち、惑星は質量に比例し半径の2乗に反比例する力で太陽に引かれていることが導かれます。さらに、ニュートンの第3法則より、太陽が惑星を引く力の反作用として、惑星の太陽への引力が想定されます。
結局、太陽と惑星の間の引力は、太陽と惑星の両方の質量の積に比例すべきものとして考えられました。そしてニュートンは、天体だけではなく質量をもつすべての物体にこの関係を普遍化します。
万有引力の法則は式で表せば次のようになります。
ここで、M,mは質量、rはその物体の間の距離、Gは万有引力定数(重力定数)を表します。
月の軌道半径は地球の半径の約60倍です。ニュートンは月の重力加速度が地上の3600分の1であることを確かめています。
運動方程式(左側の混成モメント)に出てくる質量は、慣性質量といわれています。これは物体の動きにくさをを表しています。また、万有引力(右側の混成モメント)に出てくる質量は、重力質量といわれています。これは万有引力を受ける大きさを表しています。この二つの質量は一致しなければなりません。
ガリレイの第一法則(ピサの斜塔の実験)やケプラーの第3法則が成り立つことは、この二つの質量が等価であることを示しています(等価原理)。
ニュートンは惑星の法則と落体の法則から、運動法則と万有引力を導きました。こんどはこの二つの仮説を前提にして、演繹的にガリレイの法則とケプラーの法則が導けるかどうかを確かめておきましょう。
ケプラーの惑星の法則とガリレイに落体の法則が、万有引力に基因し、運動法則にしたがっていると考えてみます。大西直毅『物理学入門』参照。
地上での物体が落下するのは、地球と物体の間に働く万有引力が原因となっていると仮定します。物体の質量をm、地球の質量をM、地球の半径をR0とすると、地球と物体の万有引力は、次のようになります。
落体の運動は、次のように表現できます。
したがって、
(5)
物体の質量に関係なく、重力の加速度gは、一定であることがわかります。ガリレイの第一法則が成立していることがわかります。
次に、月が地球の周りを回るのは、地球と月の間に働く万有引力が原因と仮定して、月の公転周期と半径の関係を求めてみましょう。月の質量をm、月と地球の距離をRとします。そして、速さV、周期Tで、まわっているとします。
遠心力と地球の引力のつりあいを考えれば、月の運動は、次のように表現できます。
等価原理により、両辺を m で割ることができ、月の周期的運動に、月の質量は関係していないことがわかります。
(6)
ここで、公転周期Tと速さVの関係は、次のようです。
(7)
また、万有引力定数 G と地球の質量 M の積 GM は、 (5) 式より次のようになります。
(8)
(7)と(8) を (6) へ代入すると、次の関係が得られます。
これを、整理すると
公転周期Tの2乗が公転半径Rの3乗に比例する式が導かれます。いいかえればケプラーの第3法則が成立していることがわかります。
武谷三男は、ケプラーの惑星の法則とガリレイの落下の法則を実体論的段階に位置づけ、ニュートン力学を本質論的段階に位置づけています。また、ケプラーの惑星の法則とガリレイの落下の法則を特殊的判断、ニュートン力学を普遍的判断と考えています。実体論的段階(特殊)から本質論的段階(普遍)への移行は、「実体的契機によって実体を含みながら、実体的なる法則の見方を否定して高まる」と述べています。
武谷の実体の考え方は、構造や模型を中心に多義にわたっていますが、わたしは「本質と偶有性」と考えればよい思いました。『もうひとつのパスカルの原理』第2章参照。
「実体」を「本質と偶有性」と考えることは、「特殊」を「普遍と偶有性」と考えることと対応しています。そして、わたしは実体や特殊から偶有性を切り捨てることによって、「本質」や「普遍」へ移行できると考えればよいと思いました。
「実体的なる法則の見方を否定して高まる」という具体的な方法が、二つの「論理的なもの」の自己表出と指示表出の混成なのです。混成モメントが「本質」や「普遍」へと進んでいき、その残りの自己表出と指示表出が切り捨てられる「偶有性」です。
例えば、太陽系の構造の描像で、ケプラーは、太陽の動力が惑星を押していると想定していました。これがガリレイの落下の法則と混成することによって、切り捨てられることになった「偶有性」です。これに対して、「本質」や「普遍」として引き継がれたのは、惑星が、軌道の接線方向に飛び去っていかないように、太陽が惑星を引っぱっているという考えです。
ケプラーにおいて、本質と偶有性、普遍と偶有性が一体となっていることを雄弁に語るのは、向心力はケプラー自身は気がつかなかったが、ケプラーの第2法則(面積速度一定)の自然な帰結であったことです。
一方、ガリレイは太陽のまわりの惑星の周回を円運動(自然運動)と考え、太陽と惑星の間に力の存在を想定することはありませんでした。これがケプラーの惑星の法則と混成されることによって、切り捨てられることになったガリレイの「偶有性」です。これに対して、「本質」や「普遍」として引き継がれたものは、惑星に働いている軌道の接線方向の慣性力と太陽に向かう加速度でした。これは、ガリレイが地上で分析した放物体の運動を、惑星に適用するだけの関係です。しかし、強調すべきことは、これは、ガリレイには、不可能な発想だったことです。ガリレイにおいても本質と偶有性、普遍と偶有性が一体となっているわけです。
また、湯川秀樹は、ニュートンはリンゴの落下運動と月の周期的運動を同定したといいます。そして、このとき働いている類推の過程は「比喩」や「模型」の場合よりも複雑で、「まわり道」をしていると述べています。「まわり道」とは、「速度、加速度、質量、力などの諸概念を媒介として、一見まったく違った運動に共通する本質の認識に到達」した過程をさしています。
同定するときの「まわり道」の具体的な方法が、二つの「論理的なもの」の自己表出と指示表出の混成に対応すると考えています。
複合論(弁証法の新しい理論)は、武谷三段階論の実体論的段階から本質論的段階への移行に位置づき、湯川同定理論の「まわり道」に対応していると考えます。
参考文献
河辺六男編集『世界の名著26 ニュートン』 中央公論社 1971年
大西直毅『物理学入門』 東京大学出版会 1996年
和田純夫『一般教養としての物理学入門』岩波書店 2001年
風間洋一『物理はいかに考えられたか』岩波書店 1990年
武谷三男『弁証法の諸問題』 勁草書房 1969年
湯川秀樹『創造への飛躍』 講談社 1981年
朝永振一郎『物理学とは何だろうか』 岩波書店 1979年
伊東/広重/村上『思想史のなかの科学』平凡社 2002年
山本義隆『磁力と重力の発見』 みすず書房 2003年