光を電磁波と同じだと考えるマクスウェルの発想は、ε(イプシロン) と μ(ミュー) の複合と特徴づけられる。ε は誘電率、μ は透磁率を表わす。ε と μ の複合によって、電気力線と磁力線は統一され、電磁波が形成される。そして、電磁波と光は同じ速さで進むことがわかる。ε と μ は、電気、磁気、光を統一する。
目次
マクスウェルは電磁気に関する論文を4つ書いている。(『電磁気の単位はこうして作られた』木幡重雄著 工学社 2003年 参照)
これらを読んでから取り組もうと思っていたが、白状すると最初の段階で放棄した。まず、手近なところになかった。また、手にしても、能力的に読み切れないと思った。『物理学史U」(広重徹)は、論文4は取り上げていないが、論文1・2・3については立ち入って紹介していた。わたしにはとても読めたものではないと観念した。
これまでマクスウェルの方程式として知っていたのは、マクスウェル自身のものではなく、電磁波を発見したヘルツが整理したものであること、また、ベクトル記法や偏微分記号はヘルツも含めて使われていないこと。マクスウェルのオリジナルは4つの方程式ではなく、12の方程式であること。しかも、近接作用の立場ではなく遠隔作用の立場も混在し、混沌としていること。これでは素人にはお手上げである。
方針を変えた。マクスウェルの論文にもとづいて考察するのではなく、現在の教科書に整理された立場から、マクスウェルの発想をまとめようと思うようになったのである。この意味では、わたしが描くのは、歴史のなかのマクスウェルではなく、幻視のなかのマクスウェルである。これに利点があるとしたら、その一つは、エーテルにふれないで済むことだろう。
ここで試みるのは、光と電磁波が同じものだと考えるマクスウェルの再構成である。きっかけになったのは、『電磁波とはなにか』(後藤尚久著 講談社 1984年)を読んでいて、次のような記述を見つけたことにある。
電気に関する基本的な法則であるファラデーの法則とアンペアの法則には、定数として誘電率 ε と透磁率 μ がでてくる。ところが、1/√( μ ε ) は速度の単位(メートル/秒、m / s)をもつことは古くから知られていた。電気の古い単位には、誘電率を一とする静電単位系と透磁率を一とする電磁単位系という二種類の単位系があり、それらの換算のために 1/√( μ ε )の値に興味がもたれたのである。ただ、この数値が具体的に何を意味するかはわかっていなかった。
マクスウェルの発想は、 ε と μ の複合といえばいいのではないかと思えたのである。
1856年に、ウェーバーとコールラウシュの実験から、1/√( μ ε ) の値が 3.11×108 m / sec であることがわかる。つまり、光の速さである。また、1856年はマクスウェルが「ファラデーの力線について」を提出した年でもある。マクスウェルはファラデーの近接作用の立場に立ち、力線を数学的に表現しはじめていた。
この二つが結びついたのは1861年である。この年、マクスウェルは電気力線と磁力線が相互に誘導し合い同じ速度で伝わっていくと仮定すると、その速さは光の速さになると気づいたのである。マクスウェルは電気力線と磁力線を統一して電磁波を構成しはじめる。
マクスウェルの発想について、わたしはこれまでに二度取り上げている。最初は、『もうひとつのパスカルの原理』においてである。二度目は『弁証法試論』の補章「弁証法2003」「マックスウェルの発想と複合論」においてである。いずれも、中谷宇吉郎の「電磁波の存在を示す数式」(『科学の方法』)に依拠して、マクスウェルの発想と複素過程論・複合論の対応を検討したものである。
「マックスウェルの発想と複合論」では、複合論と次のように対応させている。
ここには、比例定数は、 1 / c が出ているだけで、 μ も ε も出ていない。これは、単位系の違いによるものである。電磁気の単位系は、基づく単位系によって、次元と係数が異なるのである。中谷宇吉郎の式は、ガウス単位系にもとづいている。この単位系は μ と ε を 1 とするものである。
ガウス単位系では1861年の発想を表現できない。 μ と ε が表現されるMKSA単位系にもとづいて、展開していくことにする。電磁波が光の速度で進むこと、光が電磁波であることを、シンプルに描いてみたいと思う。
電荷に対するクーロンの法則、磁荷に対するクーロンの法則、ビオ・サバールの法則(電流と磁荷の相互作用)を連立させると、それぞれの法則の比例定数は、独立なものではなく、次の関係に制約されたものとなる。(「電磁気学における単位系」 参照)
ここで、 K は連結因子と呼ばれているもので、ビオ・サバールの法則の比例定数に関係している。また、 ε は誘電率、電荷に対するクーロンの法則の比例定数である。 μ は透磁率、磁荷に対するクーロンの法則の比例定数に関係している。 v ( = r / t )は速さだが、比例定数を制約するものとして現われてくるのは、電流は「単位時間に流れる電荷」( i = q / t )として考えられているからである。電荷のなかの時間 t が、クーロンの法則の距離 r と結びついているのである。
電磁気の単位は、上の制限のもとで、技術的な操作を捨象していえば、 K , ε , μ の中から、2つを任意に選んで構成され、区別されている。いまは、 v が c (光速)とわかっているから、それで説明すると、例えば、
静電単位系は、K = 1 , ε = 1 を選ぶ。すると、 μ = 1 / c2となる。
電磁単位系は、K = 1 , μ = 1 を選ぶ。すると、 ε = 1 / c2である。
ガウス単位系は、 ε = 1 , μ = 1 を選んでいる。すると、 K = c である。
さて、比例定数の間を制約する関係を次のように変形しておこう。
このようにしておくと、 1 / √( μ ε ) は速度の単位(メートル/秒、 m / s)をもつこと、換算のために 1 / √( μ ε )の値に興味がもたれたことの意味がわかりやすくなるだろう。
もう一度、わたしの出発点を確認しておく。
電気に関する基本的な法則であるファラデーの法則とアンペアの法則には、定数として誘電率 ε と透磁率 μ がでてくる。ところが、1 / √( μ ε ) は速度の単位(メートル/秒、 m / s )をもつことは古くから知られていた。電気の古い単位には、誘電率を一とする静電単位系と透磁率を一とする電磁単位系という二種類の単位系があり、それらの換算のために 1 / √( μ ε )の値に興味がもたれたのである。ただ、この数値が具体的に何を意味するかはわかっていなかった。
1 / √( μ ε ) の具体的な意味を探究していくことにしよう。
アンペールが電流の磁気作用について定式したとき(1820年)、電磁誘導(1831年)はまだ発見されていなかった。ウェーバーは電磁誘導を説明できるようにアンペールの法則を拡張する(1846年)。アンペールは電流をニュートン力学の質点のような力の源としてのみ考え、電流の中身については考えなかった。ウェーバーは電流の本性について、クーロンの静電気力と同じ電荷の運動が原因であると想定した。そして、電荷どうしの間に、次の式で表される力を仮定した。
ここで、 F は力、 e ・ e' は電気量、 r は e、e' 間の距離である。式の詳細には立ち入らない。確認しておきたいのは、第1項が静電的力を表し、第2項が電磁的な力を表していることである。ちなみに、第3項が、電磁誘導を説明する項である。
c は、電荷を静電単位と電磁単位との間で換算するために導入された定数である。速度の次元をもっていなければならないことがわかる。この c の値は、静電単位と電磁単位を中継する 1 /√( μ ε ) の値と等しいのである。
1856年の実験とは、この c の値を決めるための実験だった。
この実験は、ライデン瓶(コンデンサ)に電荷を充電し、その量を静電単位と電磁単位で測定することによって行われた。骨格だけ示せば、コンデンサに蓄えた電荷を測定し、その電荷を既知の磁界のなかで放電させ、そのときの力を測定することによって行われたのである。
ウェーバーとコールラウシュは、電荷の静電単位 Q と電磁単位 Qm の比( Q / Qm )を直接、測定したように思われる(『電磁気の単位はこうして作られた』参照)。
しかし、この実験のデータから、誘電率 ε と透磁率 μ の関係もわかるのである。
1865年の実験と誘電率 ε と透磁率 μ の関係についてみておこう。
コンデンサに電圧をかけると電荷が誘起される。このとき電荷量 Q は電圧と誘電率 ε に比例する。この電荷 Q を放電させ導体線に電流 I を流す。この導体線が磁界 H の中にあると力 F を受ける。この力は電流 I と磁界 H に比例し、比例定数は透磁率 μ である。 それゆえ、磁界 H とコンデンサの電圧 V と電荷を放電させたときの力 F の測定から、 ε と μ の積がわかり、 1 /√( μ ε )の値が求まるのである。(『電磁波とはなにか』後藤尚久著 参照)
この値は、 3.11×108 m / 秒 となった。これは、1849年にフィゾーが測定した光の速度 3.15×108 m / 秒 とほぼ同じだった。マクスウェルは、光と電磁波は同じものだと直観した。
電磁気学の基本法則は、マクスウェルの方程式である。この方程式の概略を確認しておこうと思う。『人物で語る物理入門』(米沢富美子著 岩波新書 2005年)には、マクスウェルの方程式のコンパクトな要約があるので、これをベースにしよう。とくに、力線を強調して要約してあるところがありがたい。
マクスウェルは、ファラデーの力線の考えを引き継ぎ、それを数学的に表現することで、電磁気理論の体系作りに成功します。電気力線と磁力線で満たされた空間を電磁場と呼び、次の四つの式が基礎になると考えました。しかし、これらの四つの式を連立させたとき、数学的表現が物理的事実と矛盾する場合があることに、マクスウェルは気づきます。この問題を解決するためにマクスウェルは、1のアンペールの法則を見直します。電場と磁場の相似性を保つためには、2のファラデーの法則からの類推で、「電場の変動」が回転的な磁場の発生に寄与すると考えるべきです。この点を考慮してマクスウェルは「電場の変動」の項を、1のアンペールの法則のなかの「電流」に加えます。こうすると、懸案だった矛盾が消えました。この項を加えた新しい1' 式は、「電場の変動と電流との和は、回転的な磁場を作る」と表わすことができます。この式は、「マクスウェル―アンペールの法則」と名付けられます。
- 1 「アンペールの法則」 電流は、回転的な磁場を作る
- 2 「ファラデーの法則」 磁場の変動は、回路に電場を作る
- 3 「磁場に対するガウスの法則」 閉じた曲面を出入りする磁力線の数の差し引きは、零になる
- 4 「電場に対するガウスの法則」 閉じた曲面を出入りする電気力線の数の差し引きは、曲面の中にある電荷の総量になる
4つの式を連立させたときの矛盾とは、電流の連続性に関連するものである。回路にコンデンサがある場合、電流の収支が合わなかったのである。
マクスウェルは、回路のコンデンサの空間に着目する。マクスウェルの発想の核心とは、空間に変位電流を想定し、変位電流も導線内の伝導電流と同じように磁界を発生すると考えたことである。すなわち、アンペールの法則とファラデーの法則を混成して、「電場の変動は、回転的な磁場を作る」という仮定をしたことである。
電磁気の現象についての法則は、実験を通して発見されたものである。一つ例外があり、それがこのマクスウェルの法則である。変位電流の法則・マクスウェルの誘導法則という表現もある。これは仮説として導入されたのである。
この仮説によって、「磁場の変動は、回転的な電場を作る」と「電場の変動は、回転的な磁場を作る」という「対」が形成される。電気力線と磁力線が走りだす準備が整ったのである。
「マクスウェルの方程式」の際立って優れた点は、すでに知られた電磁気現象をすべて説明できただけではありません。この方程式から、誰も見たことのない「電磁波」の存在を予言し、さらに、「光の本質は電磁波である」と結論できたことが重要なところです。
「マクスウェルの方程式」(1'234)を連立させると、電場を消去して「磁場のみが現れる式」を導いたり、磁場を消去して「電場のみが現れる式」を導いたりすることが可能になります。そのときに導かれた式は、磁場に関するものも、電場に関するものも、それぞれ、横波に対する「波動方程式」の形になります。
この波の速度は、右に述べた「波動方程式」から理論的に求められ、電磁気的量で表わすことができます。その電磁気的量に測定値を入れて計算された「波の速度」は、「光の速度に対する観測値」とよい一致を示すことが、マクスウェルによって見いだされました。こうしてマクスウェルは、光の本質は電磁波であるという結論に至ったのです。
マクスウェルの方程式を見ておこう。
ここで、 H は磁場の強さ、 D は電束密度、 i は電流密度、 E は電場の強さ、 B は磁束密度、 ρ は電荷密度である。 rot は回転、 div は発散を表す。
ここで D (電束密度)と E (電場の強さ)、 B (磁束密度)と H (磁場の強さ)には、次のような関係がある。電束とは電気力線の数(束)である。また、磁束とは磁力線の数(束)である。
ここで ε は誘電率、 μ は透磁率である。
さて、真空では、電流もなければ電荷もないから、 i = 0 、 ρ = 0 である。これを代入すると、マクスウェルの方程式は次のようになる。

これを電場 E と磁場 H だけで表現すると、次のようになる。
(1)
(2)ε(誘電率)とμ (透磁率)が式に出てくる。真空だから、 ε0 、 μ0 とすべきかもしれないが、 ε と μ の表記のままいかせてもらう。また、ベクトルは太字にすべきだろうが、区別しないで表示させてもらう。さらに、ε と μ の積の表記が、混在していることも気になるかもしれない。わたしはアルファベット順の ε μ を基本としているが、後藤尚久氏の近くでは、μ ε となっている。
竹内薫は、『「ファインマン物理学」を読む 電磁気学を中心として』のなかで、電磁波が光速で伝わるというファインマンの推論を紹介している。もっともシンプルに、また、わかりやすく、電磁波(電気力線と磁力線)が光の速さで進むこと示すには、ファインマンの推理によるのが一番だと思う。竹内の解説とともに、みておこう。
電磁波のふるまいを考えたときには、マクスウェルの方程式の第2式「ファラデーの法則」と第4式「アンペールの法則」を使った。ファラデーの法則の右辺には「∂ /∂t 」という微分があり、左辺には「∂ /∂x 」などという微分がある。だから、図式的には、
なのであり、左辺の「分母」の∂ x を両辺にかけると、
つまり、
(18.10)
ということになる(距離 x ÷ 時間 t =速さ v )。
なんといい加減な! と数学者に怒られるかもしれないが、厳密に計算しても答えは同じになる(厳密に計算する、というのは、微分形で書かれているマクスウェルの方程式を積分すること)。
ここに出てきた速度 v は、もちろん、平面から出た磁場 B が空間を伝わる速さのことである。
次に、拡大版アンペールの法則で電流jがゼロのとき、方程式は、図式的には、
となるので、やはり、左辺の「分母」の ∂x を両辺にかけて、
(18.13)
と書くことができる。この結果もきちんと計算した場合と同じ答えである。
ここで電場 E と磁場 B の関係が2つの式で表されているが、いったいどういうことだろう?
マクスウェルの方程式は E と B の比をきめる。式(18.10)と(18.13)から、
と
ちょっと待った。比 E / B に二つのちがった条件がある。われわれののべたような場は現実に存在できるのだろうか。もちろん二つの方程式が成り立つことのできる速さは、 v = c ただ一つである。波面は速さ c でうごかねばならない。こうして電流の電気作用が有限の速度 c で伝わる例が得られた。
ファインマン先生の説明は明快だ。マクスウェルの方程式は、電磁波を予言し、なおかつ、その速度が光速 c であることも予言するのである。
「ちょっと待った」というべきだろう。ファインマンの式には最初から光速 c が入っている。これでは、マクスウェルの発見の核心がつかめないのではないだろうか。ここは「ファインマンのナイフ」( =「オッカムの剃刀」竹内氏が作ったしゃれ)が裏目に出ている場面だと思われる。
光速 c を使わないで、マクスウェルの方程式が電磁波を予言し、なおかつその速度が光速 c であることを試みてみよう。
電場 E と磁場 B ではなく、電場 E と磁場 H を使う。
マクスウェルの法則とファラデーの法則の左辺は、 rot だから、空間の微分 ∂/ ∂x がある。また、右辺には時間の微分 ∂/∂t がある。ファインマンと同じように、あたりをつけていくことにしよう。
マクスウェルの法則を次のように単純化する。
左辺の分母∂x を両辺にかけると、
ここで∂x /∂t = 速さ v だから、次のようにかける。
ここで、 v は、電場 E が、空間を伝わる速さである。
同じようにファラデーの法則を単純化して、変形する。


ここで、 v は、磁場 H が、空間を伝わる速さである。
ここで電場と磁場の関係と磁場と電場の関係が二つの式で表されている。
このような力線の場は、現実に存在できるのだろうか。2つの式が成り立つのは電気力線と磁力線が同じ速さで進むときである。 v は速度を表す記号だが、ここでは同じ大きさの速さと仮定する。電気力線と磁力線は独立に形成されるものではないから、この仮定は妥当なものだろう。このように仮定すれば、力線の場は存在しうるのである。上の2つの式の大きさだけを取り上げると、次のようになる。
2つの式の積をとると、次のようになる。
したがって、
これを v について解くと、
すなわち、電気力線と磁力線は同じ速さで、電磁波となって進む。しかも、そのときの速さは、 1 /√( ε μ ) の速さである。そして、これは、光の速さ c に等しい。
これがもっともシンプルな電磁波の予言であり、電磁波は光速で進むことの推論ではないかと思う。
1861年、ファラデーの力線を追いかけてきた思考が、実を結びはじめる。マクスウェルは電気力線と磁力線が、1 /√( ε μ ) の速さで移動すれば、電磁波として統一されることをつかむ。しかも、1 /√( ε μ ) の値は、光の速さに近いのである。
こんどは、力線が電磁波として、光の速さで進んでいくことをみておこう。マクスウェルの方程式から、波動方程式を導いてみよう。真空中のマクスウェルの方程式 (1) (2) (3) (4) を連立させる。
まず、電場を消去して「磁場のみが現れる式」を導いてみよう。
(1)の両辺を入れ替える。

ここで、E を消去するために、rot をとる。
右辺に公式
を使うと、
ここに、(2)(3)を入れる。
すなわち、
を代入する。
したがって、
整理して、
次に、磁場を消去して「電場のみが現れる式」を導いてみよう。
(2)の両辺を入れ替えて、
ここで、H を消去するために、rot をとる。
右辺に公式
を使うと、
ここに、(1)(4)を入れる。
すなわち、
を代入する。
したがって、
整理して、
「磁場のみが現れる式」と「電場のみが現れる式」をまとめると、
これは、磁場 H も電場 E も、波動方程式、
を満たすことを示している。
すなわち、磁場 H と電場 Eは、 電磁波となって、光速 c = 1 /√( ε μ )で進むことを示している。
カルチェフの『マクスウェルの生涯』を読んでいて、最初は驚き、次にはあり得ることだと思ったことがある。第3論文において、マクスウェルは「電磁波」とはいうものの、「磁波」しか考えておらず、「電波」については気づいていなかったというのである。1864年までは、マクスウェルは「磁場のみが現れる式」しか導いていなかったことになる。
マクスウェルが『電磁場の力学理論』の中で、自分の方程式を導き出したとき、その方程式のうちの一つは、まさにファラデーが述べていたこと、つまり、磁気作用は横波の形で実際に伝播するということを証明しているように思われた。
そのときには、まだマクスウェルは彼の方程式からさらに、磁気作用とともに電気的な擾乱も四方八方に広がるということが当然の帰結として出てくることに気づいていなかったようだ。
「波は、ただ磁気的擾乱からのみ成り立っています」とマクスウェルは、かれの式から与えられる帰結の一つに気付かずに書いている。
電気的擾乱も磁気的擾乱も同時に含んでいる、その言葉の完全な意味での電磁波は、もっとあとで、マクスウェルがグレンシアーに移った1868年、『光の電磁気理論に関する意見を伴った電気力と電磁気力との直接的比較法について』という論文で現われた。
自分で気づいたのだろうか。それとも誰かに指摘されたのだろうか。マクスウェルの理論はわかりにくく、関心をもつものは少なかったというから、おそらく、自分で気づいたのだろう。いずれにしても、電波を忘れているとわかったとき、あわてたのではないだろうか。1864年と1868年の間は4年である。すくなくとも2年は、まったく気づかなかったのだと思う。
1873年、マクスウェルは『電気磁気論』という書物を公刊して、電磁理論を集成している。
1875年、マクスウェルは「エンサイクロペディア・ブリタニカ」に「エーテル」という記事を書いている。(マクスウェル「原子・引力・エーテル」『世界の名著65 現代の科学T』所収)
光の電磁気理論 ―― したがって電磁気の媒質の諸性質は、これまでに問題にしてきた限りでの光の媒質の諸性質と同様になるが、それらを比較する最もよい方法は、電磁気的な擾乱がその媒質中をどのような速度で伝播されてゆくことになるかを決定することである。もしもこの速度が光の速度と等しくなるとということになれば、二つの媒質は実際には同一の空間を占めている以上、真に同一のものであると信じる強い理由が存在していることになる。この速度の計算のためのデータは、電磁気単位系を静電単位系と比較するために行なわれた種々の実験によって提供されている。 このようなデータの異なった組から計算してみると、空気中での電磁気的な擾乱の伝播速度は、いろいろな観測者によって決定されている光の速度とあまり違わないものになる。むしろ光の速度のいくつかの計算相互間の相違の方が大きいほどである。
1861年からすでに14年たっている。それでも 1 /√( ε μ ) の値も光の速さ c の値も、測定中であり、確定していないことがわかる。そしてマクスウェルは1861年の論文の結論――「光を構成しているのは、電気的・磁気的現象の原因となっているのと同一の媒質の横振動であるとの推論はほとんど不可避的である」(『現代の科学T』解説「十九世紀の科学思想 」参照)――を繰り返している。
歴史のなかのマクスウェルは電磁波をエーテルの横振動として描いた。これはファラデーが磁力線をエーテルの一つの機能として捉えた立場の正確な継承である。これに対して、幻視のなかのマクスウェルは、相互に誘導し合う電気力線と磁力線の移動として電磁波を描くのである。
歴史のなかのマクスウェルは、電磁気理論の形成において、ちょうど、ニュートン力学の形成におけるケプラーと同じ役割をになっていたのではないだろうか。マクスウェルがつかんだ電磁気の本質はさまざまな偶有性につつまれていたのである。
中谷宇吉郎の「電磁波の存在を示す数式 」(『科学の方法』)を初めて見たのは、複素過程論を弁証法の理論として見直していたころである。
まだ形はできていなかったが、中谷宇吉郎のA)B)C)の三段階に、わたしが求める弁証法の端的な表現を見る思いがしたものである。暗中模索のなかの一条の光。電気と磁気の統合過程に執着してきた理由である。
マクスウェルは光の本質は電磁波であると考えた。その発想のなかの弁証法を抽出すると、次のようになる。
1 選択
「アンペールの法則」 電流は、回転的な磁場を作る
「ファラデーの法則」 磁場の変動は、回路に電場を作る
2 混成
「マクスウェル法則」 電場の変動は、回転的な磁場を作る
「ファラデーの法則」 磁場の変動は、回転的な電場を作る
3 統一
「磁場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
「電場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
これを式で表せば、次のようになる。
弁証法の図式で説明してみよう。
アンペールの法則の自己表出と指示表出は「回転的な場の出現」に関連するものと考えられる。これに対して、ファラデーの法則の自己表出と指示表出は「場の変化」に関連するものだったと考えられる。
2つの法則の自己表出と指示表出が関連しあい、回転的な場の出現と場の変化の関係を構成する。
| c | ← | bi | + | a | → | di |
| + | ↑ | ↓ | + | |||
| bi | ← | c | + | di | → | a |
ここで、上の中央の bi + a をアンペールの法則としよう。下の中央の c + di がファラデーの法則である。
右側の混成モメント di + a は、アンペールの自己表出 とファラデーの指示表出 から構成されている。これは、アンペールの自己表出(回転的な場の出現)とファラデーの指示表出(場の変化)とが結合する方向を示している。つまり、アンペールの法則の i (電流)を、電場の変化として捉えなおすことを意味している。
これが右側の混成モメント di + a に対応する式である。変化する電場は回転的な磁場を生み出すことを表している。
これに対して、左側の混成モメント bi + c は、ファラデーの自己表出 とアンペールの指示表出 から構成されている。つまり、ファラデーの自己表出(場の変化)とアンペールの指示表出(回転的な場の出現)とが結合する方向を示している。
これが左側の混成モメント bi + c に対応する式である。これは変化する磁場は回転的な電場を生み出すことを表している。
「マックスウェルの発想と複合論」では、エールステッドの法則とファラデーの法則からはじめた。ここではアンペールの法則とファラデーの法則からはじめた。エールステッドではなく、アンペールの法則からはじめたので、磁場と電流の関係を表す法則の自己表出と指示表出を「場の出現」ではなく、「回転的な場の出現」とした。選択と混成の関係を、簡潔に描けたのではないかと思う。
『人物で語る物理入門』(米沢富美子 岩波新書 2005年)には、「連立」ということばが2度使われている。この「連立」は「複合論」と共鳴する。
最初は、マクスウェルが、アンペールの法則・ファラデーの法則・磁場に対するガウスの法則・電場に対するガウスの法則を「連立」させ、電場の変動が回転的な磁場を作るという考えを付け加える場面である。
しかし、これらの四つの式を連立させたとき、数学的表現が物理的事実と矛盾する場合があることに、マクスウェルは気づきます。この問題を解決するためにマクスウェルは、1のアンペールの法則を見直します。電場と磁場の相似性を保つためには、2のファラデーの法則からの類推で、「電場の変動」が回転的な磁場の発生に寄与すると考えるべきです。
次は、4つのマクスウェルの方程式を「連立」させ、波動方程式を導く場面である。
「マクスウェルの方程式」(1'234)を連立させると、電場を消去して「磁場のみが現れる式」を導いたり、磁場を消去して「電場のみが現れる式」を導いたりすることが可能になります。そのときに導かれた式は、磁場に関するものも、電場に関するものも、それぞれ、横波に対する「波動方程式」の形になります。
最初の「連立」は、「選択―混成」と対応する。次の「連立」は「混成―統一」に対応するのである。
参考文献
『人物で語る物理入門』米沢富美子 岩波新書 2005年
『電磁気の単位はこうして作られた』木幡重雄 工学社 2003年
『基礎電磁気学』桂井誠 オーム社 2000年
『電磁波とはなにか』後藤尚久 講談社 1984年
『なっとくする演習・電磁気学』後藤尚久 講談社 1998年
『物理学史U』広重徹 倍風館 1968年
『マクスウェルの生涯』カルチェフ著・早川・金田一訳 東京図書 1976年
『「ファインマン物理学」を読む 電磁気学を中心として』竹内薫 講談社 2004年
『統一理論』藤井保徳 学習研究社 1993年
『世界の名著65 現代の科学T』湯川秀樹・井上健編 中央公論社 1973年
「電磁気学における単位系」http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/81936204/Refunit43W.pdf