金剛界如来の曼荼羅であり菩薩時代(一切義成就菩薩)に一切如来から伝授されたとされる、インドに始まりネパール・チベット等に於いて多くの曼荼羅は製作されたが、インドやチベットに於いて金剛界曼荼羅は先に登場した胎蔵界曼荼羅を凌駕して最も重要視されていた、胎蔵界は「大悲胎蔵生曼荼羅」一種のみであるが、金剛頂系の場合は多数の経典が有り狭義に「初会金剛頂経」でも・五部心観・八十一尊曼荼羅・現図九会曼荼羅など数種類が存在する、横道に逸れるが典拠である金剛頂経には「金剛頂経十八会」にも「初会金剛頂経」(
空海の請来した九会で構成される曼荼羅は現在は日本独自のもので他国には存在しない様だ、金剛界曼荼羅は金剛頂経の内主に「初会金剛頂経」(真実摂経)と理趣経から説かれるもので、多くは個々の曼荼羅を集合し二十八ブロックに分類されており、中央の会だけで描かれる場合が多いが日本の金剛界曼荼羅は二八部(ブロック)の抜粋等で構成されている、従って胎蔵生曼荼羅と違い特に大日如来に於いて尊像が重複している(注4)。
構成される曼荼羅の内容は、
・大曼荼羅(仏像で示す)
・法曼荼羅(微細会等、身密・口密・意密を三鈷杵・梵字{種子}に納める)
・三昧耶曼荼羅(持ち物で意を現す)
・羯磨曼荼羅(供養会・行動を示す)で主に描かれている。
須弥山の上にあり天界中の最高位の宮殿(注12)(色究竟)である阿迦尼陀天(akaniopta)王宮に於いて一切義成就菩薩が覚りを得て金剛界如来となると金剛頂経にあるが金剛界如来とは大日如来(毘盧遮那仏)を指す。
金剛界曼荼羅は即身成仏へのマニュアルである、即ち「五相成身観」を図形化したもので空と唯識の統合を示していると言う、五相成身観とは ・通達菩提心 ・修菩提心 ・成金剛心 ・証金剛心 ・仏心円満 と上り詰める(注7)。
日本の場合1463尊で描かれ九区分に分類されて画かれる事から九会曼荼羅とも言う、前述の初会金剛頂経を典拠として智慧の世界を顕し大日如来は智拳印を結ぶ。
九会の関連は向上門と向下門があり、向上門は降三世三昧耶会から逆時計回りに成身会へと修行の順位を示す、向下門は成身会から降三世三昧耶会まで時計回りに教科順位を示している。
また壇の西側に掲げられる事から西曼荼羅とも言われる。
詳細は曼荼羅の金剛界編を参照 金剛頂経は曼荼羅、注10参照
金剛界に君臨する如来は五智如来と言い、智慧の佛である。
金剛界曼荼羅は数種類の曼荼羅が請来されており「五部心観」と「八十一尊曼荼羅」等がある、前部は成身会を中心とした曼荼羅で正式名称を「哩多僧蘖五部心観」と言う、五部心観とは善無畏の「初会金剛頂経」に比較的忠実な曼荼羅で円珍が在唐中に恵果の孫弟子である唐密教の大家、青竜寺の法全師から授けられ円珍が自筆で奥書を認めた逸品と転写本があり三十七尊が蓮華座では無く鳥獣座の上に座し中尊は四印会が阿弥陀如来・一印会が金剛薩?である、六会で成身・三昧耶・微細・供養・一切であるが九会も六会も典拠は金剛頂経にある。
五部心観は伝持八祖の五祖、善無畏が伝えたとされるもので金剛界曼荼羅の原型と言える部分が多いが相違を挙げれば、頼富本浩著・金剛頂経入門・大法輪閣に依れば(1)五部心観では諸尊が獅子や象・馬などに乗るが九会曼荼羅に於いては乗らない、(2)中尊の印に相違があり五部心観の常印に対して九会曼荼羅は智拳印である、(3)一印会に於いて五部心観は金剛薩?に対して九会曼荼羅では大日如来となる。
特筆すべきは金剛頂経には大日如来の呼称は無く金剛界毘盧遮那が呼称されている、気鋭の研究者達に依る曼荼羅図典・大法輪閣の金剛界曼荼羅解説に依れば大日如来の呼称は使用されていない、毘盧遮那如来が使われ釈尊と関連付けされている。
金剛頂経であるが円珍は空海が広義の金剛頂経(金剛頂経十八会)を重要視したのに対抗して初会金剛頂教を前面に挙げたと思惟される。
また後部は空海や円珍請来の八十一尊曼荼羅がある、金剛界の成身会を著しているが尊数と姿形が異なり四大明王が加わり81尊で構成されている、五仏も鳥獣上に座しており大日如来が獅子・阿閦如来が象・宝生如来が馬・無量寿如来が孔雀・不空成就如来が金翅鳥に座しており、空海が最初に請来しているが、主に天台宗に於いて重用されている、因みに金翅鳥とは梵語でガルダ(迦楼羅)と言う空想された鳥で金色の翼を持ち両翼をのばすと336万里に及ぶと言う。
尚五部心観は転写本を含めて・園城寺の円満院本(巻頭欠落) ・高野山、西南院本(巻頭欠落) ・武藤家本(中間欠落) ・園城寺、法明院本(江戸時代転写) ・東京国立博物館本などがある。
成身会の主な尊像と五尊の智慧 (五智如来) (番号1~5は下図{金剛界曼荼羅}で尊像の位置を示す)
1、大日如来(金剛界毘盧遮那) 中央尊 ・法界体性智宇宙の真理を現す知慧 太陽光の白色 獅子座 密号・遍照金剛
四方波羅蜜菩薩 金剛波羅蜜菩薩 宝波羅蜜菩薩 法波羅蜜菩薩 業波羅蜜菩薩を従える。
2、阿閦如来 東尊 ・大円鏡智 森羅万象を鏡す知慧 パワー 障害や悪の打破 夜明け前の青色 象座 密号・不動金剛・怖畏金剛 四方金剛菩薩 金剛薩埵菩薩 金剛王菩薩 金剛愛菩薩 金剛喜菩薩を従える。
3、宝生如来 南 尊 ・平等性智 あらゆる機会平等の知慧 財宝・幸運 南の太陽光の黄色 馬座 密号・平等金剛・大福金剛
四方金剛菩薩 金剛宝菩薩 金剛光菩薩 金剛幢菩薩 金剛笑菩薩を従える。
4、阿弥陀如来 西 尊 ・妙観察智正しい観察の知慧 慈悲・智慧 無量寿 日没前の赤色 孔雀座 密号・清浄金剛・蓮華金剛
四方金剛菩薩 金剛法菩薩 金剛利菩薩 金剛因菩薩 金剛語菩薩を従える、参考までに金剛法菩薩とは観音菩薩が勧請を受けた密教名である、また文殊菩薩の勧請名は金剛利菩薩である。
5、不空成就如来 北 尊 ・成所作智 必要な事を行う知恵 作用・結果 日没後の緑黒色 ガルダ鳥座 密号・悉地金剛・成就金剛
四方金剛菩薩 金剛業菩薩 金剛護菩薩 金剛牙菩薩 金剛拳菩薩を従える。
内四供養菩薩 舞・嬉・鬘・歌 外四供養菩薩 塗・香・華・燈 四摂菩薩 鉤・索・鎖・鈴 四天 地・火・水・風 周囲 ・賢劫の千佛。
図表に要約
|
五智如来 |
位置 |
印 形 |
色 |
部 署 |
智 |
座 |
|
大日如来 |
中尊 |
智拳印 |
白色 |
佛 部 |
法界体性智 |
獅子座 |
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阿閦如来 |
東尊 |
触地印 |
青色 |
金剛部 |
大円鏡智 |
象座 |
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宝生如来 |
南尊 |
与願印 |
黄色 |
宝 部 |
平等性智 |
馬座 |
|
無量寿如来 |
西尊 |
定 印 |
赤色 |
蓮華部 |
妙観察智 |
孔雀座 |
|
不空成就如来 |
北尊 |
施無畏印 |
緑黒色 |
羯磨部 |
成所作智 |
迦楼羅(ガルダ)鳥座 |
上表は大日如来と重複させてあります
九会は以下の様に成る(会とは集合を意味する)
1, 成身会―流派により根本会・羯磨会などとも呼ばれ一会のみで完成度の高い成身会で根本教理が説かれている、曼荼羅の根幹で中央の円を月輪と呼び五智如来、即ち大日如来を主尊として、 ・阿閦如来(調伏) ・宝生如来(宝を生み出す) ・無量寿如来(智慧・慈悲) ・不空成就如来(願いの成就)の「宝楼閣」があり、「五色界道」内に四波羅密・四親近菩薩・四供養菩薩を置き合計37尊 ・周囲に賢劫の千佛 ・地、水、火、風の四大神・二十天を配置し1061尊で構成される、但し初会金剛頂経には四大神・二十天の記述は無い。東寺では不空成就如来と釈迦如来を同尊と解釈しているが経典上の接点はない。
五色界道の四隅の外の四供養菩薩とは金剛焼香菩薩・金剛華菩薩・金剛燈菩薩・金剛塗香菩薩があり、その中間に四摂菩薩すなわち金剛鉤菩薩・金剛索菩薩・金剛鎖菩薩・金剛鈴菩薩が位置する。
賢劫の千佛(注5)名称は概ね佛を称賛する美徳・パワーに関する言葉と言い、天台宗では佛名会が行われている。
2, 三昧耶会―成身会の尊形を曼荼羅の象徴的仏具(三昧耶形)で現した会で賢劫16尊と外院20天の73尊にて心の極地を形成される、梵語samayaの音訳である、本誓、約束、平等、除障、等の意味を持つ。
三昧耶形に於いて五仏を挙げて於ば・大日如来が五鈷杵の上に鉄塔が画かれている、・阿閦如来は五鈷杵の上に縦に五鈷杵が置かれる、・宝生如来は三弁宝珠 ・無量壽如来は五鈷杵の上に独鈷杵開蓮華 ・不空成就如来は五鈷杵の上に十字金剛杵が画かれている、因みに三昧耶は梵語samayaの音訳で誓約・仏の境地を意味する。
3, 微細会―大日如来の金剛智すなわち智慧は微細に総てに行き渡ると言い、中央16尊以外の各像は三鈷杵・金剛杵の後背を持ち文字で理を表現される、覚りの内容表現を示した会であり73尊で構成される、この会は経典の「金剛智法曼荼羅広大儀軌分」から描かれている。
4, 供養会―大日如来の智慧と功徳が降り注ぐとされ、五智如来以外は女形で描き和を表現される羯磨曼荼羅、覚りを羯磨で表現。73尊
5, 四印会―四種曼荼羅を簡素化して五智仏以外は三昧耶形で表現される、大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智の総合である、・金剛薩? ・金剛宝菩薩 ・金剛法菩薩 ・金剛業菩薩を含め三昧耶形13尊で構成。
6, 一印会―大印・大曼荼羅とも言われ大日如来1尊のみによって瞑想の極地を表現される、理趣(煩悩即菩提)の会得者は大日如来と同体を示す、因みに一印とは智拳印と同意である、但し初会金剛頂経に於いては大日如来ではなく金剛薩埵になっている。
7, 理趣会―この会は初会金剛頂経には無く広義の金剛頂経の範疇に入る「七巻理趣経・大安楽不空三昧真実瑜伽」から取られたとされる、・金剛薩?、を主尊に愛欲を認知し煩悩即菩提を表現されている、五秘密菩薩とも言い金剛薩埵を中心に欲金剛菩薩・触金剛菩薩・愛金剛菩薩・慢金剛菩薩とその妃で構成される、17尊で構成される、因みに理趣とは道理、教訓を意味する。
8, 降三世会―金剛頂経の内「降三世曼拏羅広大儀軌分」から取られたとされる、1, の金剛薩埵の所が憤怒調伏の降三世明王に成って77尊で構成される、特徴は外金剛部の四隅は女形で ・大威徳明王 ・軍荼利明王 ・降三世明王 ・不動明王が画かれている。
9, 降三世三昧耶会―降三世会を持物で現した、煩悩除去、発菩提心の表現、73尊であるが、金剛頂経の内「憤怒秘密印曼拏羅広大儀軌分」によるもので大日如来は五鈷杵と宝塔ではなく菩薩形で指定されている、三昧耶とは大日如来の本誓・除障・警覚・平等の意味で仏と衆生が本来は平等であると言う、また三昧とは対象に対して観想に於いての精神統一を意味し梵語サマーデイsamādhiの音訳で等持、定などと訳される。

上図は頭脳5で作図しました。
1、大日如来と四方波羅蜜菩薩 波羅蜜菩薩金剛 宝波羅蜜菩薩 法波羅蜜菩薩 羯磨波羅蜜菩薩
2、阿閦如来と四方親近菩薩 金剛薩?菩薩 金剛王菩薩 金剛愛菩薩 金剛喜菩薩 (親近菩薩とは如来の補佐官的意味を持つ)
3、宝生如来と四方親近菩薩 金剛宝菩薩 金剛光菩薩 金剛幢菩薩 金剛笑菩薩
4、無量寿如来と四方親近菩薩 金剛法菩薩 金剛利菩薩 金剛因菩薩 金剛語菩薩
5、不空成就如来と四方親近菩薩 金剛業菩薩 金剛護菩薩 金剛牙菩薩 金剛拳菩薩
注(1)
金剛杵――杵(きね)の形をして端部に刃を付けたインド古来よりの武器で如何なる物でも打ち砕くシンボルを密教の法具とした。 独鈷杵・三鈷杵・五鈷杵・九鈷杵などが有る。
注(2) 三昧耶――梵語のsamaya・音訳でサンマヤ(真言宗)サマヤ(天台宗他)と呼ばれ諸仏の誓願を結ぶ印契や金剛杵など手に持って表現したもの、大日如来は五鈷杵の上部に塔・阿?如来は寝かせた五鈷杵の上部に五鈷杵を立てる・阿弥陀如来は五鈷杵の上部に独鈷開運華など、samは共にでayaは行くの、合成語と言われる、因みに金剛杵は密教に於いて金剛鈴と共に象徴的アイテムで行動を表す、また金剛鈴は智慧を象徴する。
注(3) 羯磨――梵語のkarman の音訳でカルマンと言い諸仏の行動を意味する。
注(4) 四大品の内金剛界曼荼羅には中央の成身会(羯磨会)から・三昧会・微細会・供養会・四印会・一印会までを金剛界品(六種)から引用される、理趣会は理趣経(六種)から取られ降三世品から・降三世会(十種)・降三世羯磨会が引用されている。
注(5) 賢劫の千佛 今現在の劫を賢劫と言い過去の劫を荘厳劫・未来劫を星宿劫と呼 梵語kalpaの意訳で佛教の言う非常に長い期間を言う、盤石劫の一劫とは四十立方里の岩に天人が百年に一度舞い降りて衣の袖で岩面を一度なでる、その岩が磨耗するまでを一劫と言う。また芥子劫も有り芥子の実を百年に一度大きな城都に一粒ずつ落とし満杯になって一劫とする数え方もある、また43億2千万年を一劫とする記述もある。 荘厳劫 星宿劫
注(6) 五智如来の揃う寺院に教王護国寺 ・安祥寺(京都) ・金剛三昧院 木造(和歌山) ・大日寺 木造(奈良) ・遍明院 木造(岡山)があり、異形に弘前の最勝院があり、真言宗寺院で占められるが京都市の臨済宗、建仁寺派で八坂の塔で著名な法観寺の五重塔には五智如来像が安置されている。
教王護国寺 ●大日如来坐像 木造漆箔 玉眼 284,0㎝ 江戸時代 阿閦如来 木造漆箔 136,7㎝ 宝生如来 明王漆箔 140,0㎝ 無量寿如来 木造漆箔 不空成就如来 木造漆箔 53,2㎝ 江戸時代
安祥寺(京都山科) ●坐像 木造漆箔 107,3cm~161,2cm
大日寺(奈良県吉野)●木造漆箔52,4cm~97,7cm 藤原時代
金剛三昧院(高野山)●木造彩色 玉眼 51,8cm~82,4cm 鎌倉時代
遍明院(岡山県邑久郡牛窓町)●木造漆箔 大日如来91,2cm 阿閦如来51,8cm 宝生如来53,5cm 阿弥陀如来51,4cm 不空成就如来52,0cm
注(7 ) 五相成身観とは唯識と空観を融合したとされ即身成仏する為の五段階の観想法である。 その内訳を示すと
1「通達本心」菩提心を己の根幹に持つ、真実の自性成就目指す
2「修菩提心」菩提心に清浄智を拡大、通達本心がより明確になる、
3「成金剛心」菩提心を堅固にする
4「証金剛身」佛性を会得、金剛心を本質に
5「佛身円満」一切如来の様に となる。
注(8)金剛とは梵語の vajra(バジュラ)でヴエーダ聖典では雷を意味する、インドラ神の武器で金剛杵を言い金属の堅固・剛毅・強い、と解釈されている、大漢和字典には「五行の金の気、剛毅から剛」とあり仏教に取り入れられて帝釈天となる、金剛杵は雷を起す武器である、また東大寺に存在する著名な執金剛神の執金剛とは金剛杵を持つ者を意味する。
注(9)阿迦尼陀天 空諦を言う、三諦すなわち空諦、仮諦、中諦を言い、凡てが空であり自我・自性が無い。
注(10)阿弥陀如来と無量寿如来を同尊として記述しているが異論もある。
注(11)密教では印相・持物は単に形態ではなく教理そのものを示し重大な意味を持つ。
注(12)色究竟 三界には欲界・色界・無色界がある、色とは肉体、物体及び物質を言い、欲界は地獄界、餓鬼界、畜生界、人界、六欲天までの五界を言う、色究竟は色界の最高位にあり欲望を降伏して清浄な世界を言うが情欲と色欲は残る、因みに無色界は更に上の覚り無の世界を表す。
注 道慧さんのHP「法聖」に素晴らしい金剛界曼茶羅の写真付き解説ページが存在する。
最終加筆日2004年11月1日 2009年2月17日九会他追加書き込み